その時の試飲会の目的は違うメゾンだった。そこで出会ったのがドゥヴォ―だった。今年から日本で本格的にローンチするということで話を聞いてみると、本拠地は、コート・デ・バールだという。シャンパーニュにとって輸出量、金額とも世界3位となった日本だけに、インポーター、飲食・小売店の尽力で様々な地域のシャンパーニュが楽しめるのだが、シャンパーニュの南部、コート・デ・バールにはまだ日本に届いていない宝物が多くあるのではないかという期待感がある。シュワリスタ・ラウンジでもこのエリアのシャンパーニュは紹介してきたが、そこからの新風ということであれば期待は膨らむ。
そして試飲すると、衝撃を受けた。その衝撃は、パンチ力やアタックではなくて、優しくて上品でそれでいていきいきとした表情。特に『ウルトラ D』という、名前だけ聞くとちょっとどうかなと思ったアイテムは、試飲会のマナーに反するというか、まったく粋な感じではなく3回リピート…。エクストラブリュット、ドサージュは2g/l。だが、そのエクストラブリュットは、ドライな方向性を高めるのではなく、土地のブドウをギミックなしに、でも優しく上品に表現するためのものと感じた。アロマは素朴さではなく、むしろ芳醇で、幾重にも重なる複雑な感覚さえある。これが決して重苦しかったり厚かましくなく、すーっと風に乗って消えてくれるような美しいバランス。このマジックの向こう側を知りたいと感じた。
幸運なことに、ほどなく、おなじみのワインスタイル誌「WINE-WHAT!?」での取材も兼ねてドゥヴォ―の醸造責任者であるミッシェル・パリゾ氏へのインタビューという機会を得た。そこで語られたのはコート・デ・バールへの静かながら確かな誇り、そして上品さの裏に隠された数々の技巧だった。
詳細は6月5日発売の同誌にて(P78,79。表紙と女優・関めぐみさんのカバーストーリーもドゥヴォ―が飾っています)。というところだが、一部、そのマジックの向こう側を紹介するならば、ひとつはコート・デ・バールというテロワール、ここで生まれる上質かつ、他のグラン・クリュとはまた違う可憐さをもったピノ・ノワールだ。ドゥヴォ―というブランドのベースは、この地区最大の協同組合である『ユニオン・オーボワーズ』。その上級キュヴェがドゥヴォ―。この地を知り尽くした栽培家たちが、そのプライドにかけて選りすぐったブドウを持ち寄って生まれるというのだからその質は高い。その中で僕が気に入った『ウルトラ D』などのDのイニシャルを冠したラインアップは、さらに選りすぐられた区画『セレクションD』から生まれたアイテム。ブドウだけではなく、圧搾などに関わる機器・機材までこの区画専用という徹底ぶり。僕の名前のイニシャルがDということもある…というのとは関係なく、このDという場所を訪れたいという気持ちにさせるブドウのポテンシャルと彼らの思いが感じられるのだ。
もうひとつは、ミッシェルさんのユニークな表現とそのためのアプローチだろう。例えばアロマに対しての明るい偏執というのか、こだわり。重層的だけれど可憐なハーモニー、女性的だけれどもユニセックスで、若くもあり老練さもあり、でもやはり瑞々しく爽やかに手を振って去ってくれるような、何年かたったあとに、忘れがたい香りとしてふとした時に思い出すような。それはワインの世界というより香水の世界なのだが、ミッシェルさんは実際にベルサイユなどで行われる香水の専門家が集まるセッションに参加し、その表現を磨いているのだという。アロマに対するこだわりはミッシェルさんが自分に課したミッションであり、ドゥヴォ―におけるライフワークだと言う。
そのために、また、それに加えて。シャンパーニュ好きにはド・スーザなどが採用していることで知られているかもしれないが、シェリーなどで採用されるソレラシステムや、大樽によるリザーブワインの使用、ブルゴーニュ的発想による樽のセレクトや使い方など、実に複雑な技巧を駆使しているのだが、それが、アロマやテイストとしての重厚感ではなく、爽やかで瑞々しく、そして優しく上品な仕上げに生かされている。それはコート・デ・バールの厳選されたぶどうとミッシェルさんの匠が組み合わされた結果なのだろう。
まだまだ宝物が隠されていそうなコート・デ・バール。いくつかのお気に入りメゾンはあるが、ある種その伝道師的な役割を担ってくれるのがドゥヴォ―であり、ミッシェルさんではないか。アロマとテイストの優しさと爽やかさ、ミッシェルさんの人柄。こうした親しみやすさもまた伝道師としてのふさわしさでもある。
Devaux 公式サイト:
http://www.champagne-devaux.com/