シャンパーニュを楽しむWEBマガジン [シュワリスタ・ラウンジ]

Menu Open

INTERVIEW

「新しい名門」の挑戦を味わう、幸せな時間
ジャカール最高醸造責任者フロリアンヌ・エズナックさんインタビュー

1964年。日本でいえば昭和39年。東海道新幹線が開通し、東京オリンピックが開催されたこの年、シャンパーニュでは、その後、名門の一つに数えられるまでに成長するメゾンが誕生した。それが「ジャカール」。3つの有力な栽培協同組合が手を取り合い、1つのブランドを生み出したのだ。1,800の組合員を擁し、90%以上がグラン・クリュとプルミエ・クリュという2200haもの畑を所有するこの組合の規模感と多様性、それぞれが培ってきた歴史がジャカールのバックボーンとなっている。今回は、最高醸造責任者であるフロリアンヌ・エズナックさんに、若いメゾンならではの哲学を紹介していただきつつ、代表的なアイテムについて、その楽しみ方や裏側にある思いを訊いた。

 

若いメゾンだからこそ挑むこと、守るべきこと

SHW_INT_1804_02300年を迎える歴史ある名門メゾンなどと比較すると、ジャカールの歴史は約50年。とても若いメゾンですが、国際的なブランドとして着実に成長されています。まず、メゾンとしての哲学、そこでのフロリアンヌさんのミッションをお聞かせください。

フロリアンヌさん:私たちはルールやマニュアルに縛られないメゾンだと思います。固定化されたレシピもありませんし、決めることもありません。その中で大切なものとして「シャルドネ」、「フレッシュ」、「モダン」というものがありますが、いずれにしても多くの研究を続けながら常に今の時代にあったシャンパーニュを目指しています。その中で私の役割は、この哲学のもと、メインブランドである『モザイク』をリフレッシュしていくこと。そして、『ブラン・ド・ブラン・ミレジム』とプレステージクラスのシャンパーニュを発表することでした。

確かにシャンパーニュ造りにおいてもマーケティング面においても斬新な取り組みをされているという印象があります。シャンパーニュの世界では常に革新が繰り返され、それが新しい伝統を生んでいます。一方で、長く続く伝統や栽培農家とのリレーションなども大切かと思われます。

フロリアンヌさん:私たちにとっては、長く仕事をされている1,800以上の栽培家とともに歩むことも重要です。また、コート・デ・バール、コート・デ・ブラン、ヴァル・ド・ラ・マルヌという3つの離れたエリアに醸造・製造拠点がありますので、日々のコミュニケーション、品質管理、新しい技術や施設・設備の投資、共有、展開を通じて、それらをまとめていくという仕事がありますが、これも私たちの大きな力になります。環境や品質管理の国際規格を取得したこともその一環です。多くの場合、栽培家はサプライヤーですが、私たちはパートナー。ともに、哲学を守りながら大きなプロジェクトに取り組むグループなのです。
また、私は、とにかくシャンパーニュが好きで、シャンパーニュで仕事をしたいと考えていましたから、その歴史や伝統へのリスペクトを大切にしています。ジャカールに加わる前はヴーヴ・クリコで働いていました。そこでは、長い伝統を持ち、ブランドとして確立している「ヴーヴ・クリコらしさを守る」という尊い仕事があり、今は、ジャカールをモダンな存在にしていくという、また違う仕事をしています。どちらも私にとっても楽しい仕事なんです。

伝統と革新は、決してどちらかをチョイスするというものではないということですね。

 

「溌剌」を肩の力を抜いて楽しむ

SHW_INT_1804_03さて、その哲学や姿勢を感じながら、各アイテムをシュワリスタ・ラウンジらしく、それぞれの楽しみ方にフォーカスしてテイスティングしていきましょう。ぜひ、フロリアンヌさんに、素敵なシーンをご紹介いただきながら。
まずは、『エキストラ・ブリュット・モザイク』から。…おぉ!鮮やかな酸。気持ちが沈んでたとしても一気に目が覚める感覚です。でも、香り自体からすでにコクを感じますし、泡のきめ細やかさもあって、単純に元気、クリスプ、フレッシュというわけではなく、ふんわりとした果実が感じられます。

フロリアンヌさん:ピュアなシャンパーニュですよね。ドサージュは4g/Lと少ないのですが、熟成期間は5年間と長くなっています。そこに複雑さを感じていただいているのかもしれません。私がおススメしたい場面は、日曜日のブランチの時間。海辺を散歩した後に、オープンテラスのお店で、生ガキやカニなどの甲殻類と楽しむなんていかがでしょう。それからアペロ。まだ日が落ちないくらいから。これだけで会話も弾むと思います。

なるほど。どこかゆるやかな静かなうねりのようなものを感じたのですが、海風、海辺の場面にはあいそうですね。シュワリスタとしては同じゆるやかさとピュアさからは雨の休日の昼に、友人とゆったり、というようなイメージも浮かびます。ドライながらリラックスできるシャンパーニュではないかと感じました。

 

夢と元気のための普段使い

SHW_INT_1804_04続いては『ブリュット・モザイク』です。

フロリアンヌさん:こちらが私たちジャカールを代表するスタンダード・キュヴェ。アッサンブラージュは、シャルドネ35~40%、ピノ・ノワールが30%~35%、ムニエが25%~30%で、これは『エキストラ・ブリュット・モザイク』と同じです。とにかく気軽に、気楽に飲んでいただきたいアイテムです。平日の夜、仕事が終わったあと、休日の明るい時間、楽しいとき、落ち込んでいる時に元気が欲しいとき…。いつだって夢を与えてくれるシャンパーニュなんです。

「勝ったときにもシャンパーニュ、負けたときにはなおさらシャンパーニュ」と言ったというナポレオンにぴったりのシャンパーニュですね(笑)。バランスがいいというより、不思議なユニセックス感といいますか、男性的とか女性的とかを感じさせず、いつでもどこでも気持ちを明るくしてくれるようなシャンパーニュと感じます。普段もいいですし、季節問わず、アウトドアレジャーの場面にもあいそうです。

 

ポップだけれどグルーヴ、力強くてもチャーミング

SHW_INT_1804_05次の『ロゼ・モザイク』も『ブリュット・モザイク』と同じアッサンブラージュですね。

フロリアンヌさん:はい。そこにピノ・ノワールの赤ワイン、15%~20%が加わります。ただキャンディーっぽいだけのロゼではなく、ピノ・ノワールからくるマスキュランさも感じていただけるのではないでしょうか。私がおススメしたいのは、18時~19時、いい仕事を終えたチームが、それを祝して集まって乾杯。そんなハッピーなアペロやカクテルパーティにいかがでしょう。

お花見で軽やかとか、ガールズパーティでポップにというのでもなく、かといって男性同士が深夜に深い話で…とか、ジビエと合わせてじっくりディナーということでもない。しっかりとした骨格やボディはあるけれど、チャーミングさがないわけではない。確かに男女問わず、いい仲間と楽しく味わえるというタイプのロゼですね。さらに、ガストロノミーなシャンパーニュとも言えますね。コリアンダーやジンジャーといったハーブ、スパイスとも相性が良そうですし、春から初夏にかけての爽やかなマグロなども合わせてみたい。

フロリアンヌさん:そう、とてもガストロノミーなロゼだと思います。私も和食、鮨ならマグロをお薦めしたいです。私は和食にも表れる日本の精神性をとても尊敬しています。ぜひ、日本のいろいろな場面でこのロゼを楽しんでいただきたいです。

 

祝福の50年。これからの50年

SHW_INT_1804_06そして最後に『プレステージ・シャンパーニュ・アルファ』。アルファはギリシャ語アルファベットの第一文字で「物事の最初」を意味しますが、これは実は、フロリアンヌさんが手掛けた最初のヴィンテージ、プロジェクトとお聞きしています。まさに、はじめの一歩。どのような気持ちで臨んだのですか?

フロリアンヌさん:この2010年ヴィンテージから私が担当しています。まず、ジャカールにとって新しいプレステージュとはなんなのか、というコンセプトを決めなければいけませんでした。それは、黒ブドウの力強さと白ブドウの繊細さとのバランスでした。そして厚みよりも深みを意識しました。特別な人と特別な料理をゆっくり楽しみながら、また、レザーのソファに座ってシガーをくゆらせながら哲学的な話をする。そんな場面でも合うと思います。

ただし、そこではシリアスというよりも、楽しく会話が広がりそう。なぜかといえば、テイスティングをして驚いたのは、開いてくるとますますフレッシュさを感じていくことです。

フロリアンヌさん:そこがひとつの狙いです。多くのプレスティージュ・キュヴェはマチュア(熟成感)を求めますが、私たちの狙いはフレッシュな味わいのあるキュヴェ。時間をかけて味わっていただくと、魅力を感じていただけるかと思います。

尊敬する方へのギフトでもよいかも。熟成されているけれどまだまだフレッシュですよ、というメッセージを添えて。

フロリアンヌさん:いいギフトですね! このアルファという名前、シンボルの背景にも関わることです。このプロジェクトはジャカールの50周年向けに進めましたが、50周年はそれまでを祝うとともに、新しいスタート。つまり次の50年に向けたプロジェクトでもあるのです。アルファは最初、つまり挑戦。白紙から始まりました。だから、答えがすでにあってそこにむけて完璧を求めるというものではありません。毎回毎回挑戦していく。そのシンボルでもあるんです。

若いメゾンならではの挑戦。これからの半世紀における取組も楽しみです。最後に、日本のシュワリスタにメッセージをお願いします。

フロリアンヌさん:ジャカールが本格的に日本で展開されて8年、私も10年、日本の市場を見ていますが、この間、シャンパーニュからの輸出量・輸出金額で7位、8位というところから現在は世界で3位にまでなりました。これは本当に素晴らしいことです。ジャカールとしても日本は重要な場所で、成功モデル、ショーケースとして注目していますが、なによりも、日本のお客様、シャンパーニュ・ラバーのみなさまはシャンパーニュに対して尊敬してくださる。本当に感謝しています。食文化、繊細な感性など日本とフランスは共通点が多く、私も日本に来るのが楽しみなんです。ぜひ、ジャカールのシャンパーニュを、みなさまの素敵な場面で楽しんでください。


JACQUART ブランドサイト(日本語版):
http://www.kokubu.co.jp/brand/liquors/jacquart/

recommendForYou

シャンパーニュの多彩と伝統を守る一族。その絆と挑戦
デュヴァル=ルロワ専務ジュリアン・デュヴァル=ルロワさんインタビュー

INTERVIEW

日本でいえば「3本の矢」の逸話を思い出す。1991年、当主である夫を亡くした、まだ30代半ばであったキャロルさん。そこからメゾンの新たな物語が紡がれた。当主となったキャロルさんの強・・・ read more