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洗練のオーガニック・シャンパーニュ『テルモン レゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)』を体感する喜び

6月11日、東京・代官山『CIRTY CAFÉ』にて、メゾン・テルモンの新作である『テルモン レゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)』のお披露目が開催された。この新作は、メゾン・テルモンが3年前に開始した環境プロジェクト「母なる自然の名のもとに(In the name of Mother Nature)」から生まれたもの。レオナルド・ディカプリオも投資するというプロジェクトで、土壌の活力維持、生物多様性保護を図る有機葡萄栽培を中核として、オーガニック規制に基づき、除草剤、殺虫剤、防カビ剤、化学肥料の使用を一切使用しない、環境と持続性に敬意をもったシャンパーニュ造りをするというものだ。加えて、ボトルの軽量化、不必要な梱包の廃止、再生可能エネルギーの活用に、航空機輸送の停止に至るまで徹底した取り組みを行っているという。

今回リリースとなるのは 64,800本。ムニエ 44%、シャルドネ 34%、ピノノワール 22%というブレンドで、2020年(70%)、2019 年(15%)、2018 年(15%)の3つの収穫年のものが使われ、3年間熟成。ドサージュは2.5g/L。ここからうかがえるのは、熟成、複雑さはありながらも、おそらく可憐で軽やかで、かつゆるやか。そんな好対照な印象だ。この情報はお披露目の際のテイスティングの後に知ったのだが、味わった感覚からすると、より、相反するものがお互いのキャラクターを突出させながら、次第に調和していく不思議な世界。

SHW_Report_2407_04その相反するキャラクターとは? 結論から言えば「新しい何か」と「いわゆる王道のシャンパーニュらしさ」だ。実は、という書き出しが正しいのかわからないが、アロマと最初に喉を通った時の第一印象は「シャンパーニュではない何か」だった。慎ましやか、可憐というよりはシャープさ、軽快さが際立ち、都会的な洗練。セレブレーションやゴージャス、ラグジュアリーという文脈ではないし、地シャンパーニュ的な王道感でもなかった。今まで味わってきたオーガニックや自然派、ノンドゼのシャンパーニュの感覚でもない。ネガティブな言葉であれば「シャンパーニュらしさを感じない」になるけれど、ポジティブな言葉で言えば「シャンパーニュの新しい何か」。オーストリアの若い造り手が地元のぶどう品種を用いて、都会の洗練された若者向けにロンドンで造った……とかちょっとした混乱もありながら、シャンパーニュの新しい何かという肯定感は確かにあって、ひとつは泡と余韻。シャープ、軽快と書いたけれど、泡そのものはどこか優しく心地よく、余韻にはやはりかわいらしい果実感があり、そのわずかな糸がシャンパーニュへとつながっていたように思う。

それが一転、パーティの熱気で少し温度が上がったせいか、ボトルが開いてからの時間経過か、多少のおしゃべりの時間でグラスの中で変化が生まれたのか、ぶどうそのもの強さが感じられはじめると、いわゆる王道的なシャンパーニュの表情が現れる。そこからさらにぶどう自体の強さを感じられるけれど決して重厚ではなく、どこかキラキラした、若々しい、これからまだ伸びやかに育っていくような明るさ。最初のシャープな印象から、優し気で、フレンドリーな表情。都会からよく整ったガーデン、果樹園へとイメージする場所も変わる。ロー・ドサ―ジュならではのぶどうの生き生きとした表情には“育ちの良さ”というワードが浮かぶ。3種、3つの収穫年のブレンドという情報から重厚感、難解な複雑さを思い浮かべるかもしれないが、ふくよかさであったり、懐の深い優しさというような、むしろ癒しにつながるようにも感じられた。

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SHW_Report_2407_03『メゾン・テルモン』は1912 年の創業。それからシャンパーニュのトレンドはずいぶんと変化を繰り返してきた。造り手の事情や野望もあるし、我々飲み手側、市場や環境の変化もある。ブリュットへの変化、セレブレーションアイテムとしての存在、ブリュット・ナチュールの理解、ビオの先駆者からオーガニックへの舵……。そのたびに「シャンパーニュらしさ」は議論になったし、それぞれの人にシャンパーニュらしさがあって、その「らしさ」を定義する言葉は何もない。「王道のシャンパーニュらしさ」などと書いてはいるけれど、それがなにかはなんとなくの暗黙でしかないかもしれない。会場でヒアリングすると、最初の一杯で「らしくない」という人たちはいた。それを肯定的にとらえるか、否定的に捉えるかもそれぞれだろう。シュワリスタとしてはだからこそ面白いと思う。この20年で出会ったシャンパーニュでも、こうした出会いがあり、それは総じて刺激的だった。レゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)は、その刺激を大いに感じさせてくれる。オーガニック・シャンパーニュにいだく感覚というのもそれぞれだろうけれど、もしそれにネガティブなイメージがあるとすれば、それを軽やかに乗り越えてくれるのではないか。

オーガニック・シャンパーニュについての最近の刺激についてはこちらの記事を
> シュワリスタ流オーガニック・シャンパーニュの楽しみ方

都会的で牧歌的、前進する力もあればチルをもたらしてくれる存在でもある。オーガニックは先進の取り組みであり、同時に農産物としては原点回帰でもある。といろいろ書き綴ってきたが、シンプルにいえば、“面白いシャンパーニュ”だ。この出会いは喜びでもあった。

ユニークなキュヴェであり、今後のシャンパーニュに新たな楽しさを加えてくれたテルモンの世界観。これを体感するのにおススメしたい場所がある。大阪の『Cuvée J2 Hôtel Osaka by 温故知新(キュヴェ・ジェイツー・ホテル・オオサカ・バイ・オンコチシン)』の『テルモン・ルーム』だ。『Cuvee J2ホテル』は「世界初のオフィシャル・シャンパーニュ・ホテル」として2024年1月に開業。ワンフロア・ワンルーム、全11室、それぞれがボランジェ(14階)、テタンジェ(11階)、ラリエ(8階)、ドゥモアゼル(4階)など、名門からブティック的メゾンまで、メゾンの公認を得て共同で創り上げられた。ベースとなる洗練されたミニマルなデザインや、いつでも適温でのバスタイムが楽しめる「エニータイムバス」などの贅沢なサービスの中、メゾンごとの全く違う世界観の部屋で過ごせば「シャンパーニュ・メゾンの想いに触れる」ことができるというわけだ。

この6階にテルモン・ルームがある。洗練されたアロマ、テイスト、ボトルデザインの一方で、その中から透き通るように伝わってくるピュアさであったり、ゴージャスすぎない、着飾りすぎない静かな心持だったりという、レゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)のキャラクターとこの部屋はよく似ている感がある。シャンパーニュを楽しむホテル、ではなく、シャンパーニュとともに過ごし、そのフィロソフィーに浸るというユニークなホテルで、テルモンの世界を堪能する。8月にはさらにアップデートされるというので期待したい。その日は街の喧騒から離れ、アクティブな予定を入れずに存分に部屋での時間を楽しんでみよう。

『Cuvée J2 Hôtel Osaka by 温故知新』
公式webサイト>> https://j2.by-onko-chishin.com/

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追記のひとりごと:勝手なイメージでいえば、その時、良く冷やしたレゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)とともにエド・シーランなどのチル的なのだけれど若気のエモさのある曲を聴きながら、少し時間がたってきたら、プレインホワイトティーズのヘイ・ゼア・デライラやダニエル・パウターのバッド・デイのような都会的ながらフォーキッシュな曲を経て、酔いが少し回りシャンパーニュらしい表情が出たら円熟、イーグルスの渇いていながら湿ったバラードへ。都会的な洗練はあっても、歌声や楽器にはオーガニックさがあって、キラキラと切なさが同時にあって、それが若気から円熟へと進んでも変わらない。レゼルヴ・ド・ラ・テール(オーガニック)を味わいながら、何かを思い出して温かい涙を少し流して、でも、今、その涙を流せる、どこかちゃんと元気な自分を笑顔で迎え入れる。意外とまだ、キラキラしてるじゃん、なんて独り言。そんなセットリストを組んでみたいとも思う。

 

Text by Daiji Iwase

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