近年、シャンパーニュを語る上で、切っても切り離せない言葉があります。それは「RM(レコルタン・マニピュラン)」。シャンパーニュの製造業態の一つです。他にNM(ネゴシアン・マニピュラン)というものがありますが、これが自社畑だけでなく、多くの農家からブドウを購入し自社ブランドとして販売するのに対して、RMは個人農家が家族経営を行っていることが多い。つまり自家栽培・自家醸造です。雑誌等でも取り上げられていますが、その呼び名だけが一人歩きしている感もあり、初めて聞いた人はなんだこれ? と思うかもしれません。そこで、今回はこのRMについて解説していきます。
近年RMが注目されている理由は、ワインの世界でもそうですが、ブルゴーニュの大手ネゴシアン物より、小さな生産者が作るドメーヌに人気が集まるようなイメージで、大量生産のものより、小さなつくり手が丁寧に仕込んでいる方が、レア感が高いと感じられるからでしょう。 RMでは、個人の労働や思想でシャンパーニュを仕込めるため、手間の掛かる方法を採用したり、今流行のビオ・ロジックやビオ・ディナミの実践が可能です。もし同じ事を、大手ネゴシアンで実践しようとすると大変。労働者の賃金や、ビオ実践のための教育時間などを考えると実現は難しいものがあります。またワインでも良く耳にする、テロワール。シャンパーニュは原酒をブレンドして作ることが基本で、そのため規模の小さなRMの場合、使えるブドウ畑が限られてきます。つまり多くの村からブドウを購入しているNMに比べ、テロワールが表現しやすいともいえます。
さらにRMは広告を行っていない作り手がほとんどで、大手メゾンで発生するプロモーションや広告費がシャンパーニュの価格に、概ね反映されません。その為価格も比較的安価で、実際RMでは、一部を除いてプレスティージュ・シャンパーニュでも1万円以下で購入できる物が多くなっています。
とはいえ、シャンパーニュにおいて、現在もてはやされているようなレコルタン・マニピュラン至上主義が成立するのだろうか? という疑問もあります。デメリットとして、RMは家族経営が多いため大手に比べ資金力が乏しく、その結果、設備やカーヴも乏しい。シャンパーニュは2回発酵させる過程を持ち、多くの原酒をブレンドする飲み物。例えば大手ネゴシアンなどでは数十種類の原酒を混ぜ、更に味わいに深みを出すリザーブワインなども多く加えています。そのため広大な設備とスペースの確保が必要になってきますが、これは資金力の特権。RMは設備面でどうしても劣ってしまいます。当然所有している畑もそうで、特級の日当たりの良い斜面の畑などは、やはり大手のNMが所有しているケースが多いという状況もあります。
また、RMは比較的狭い範囲の畑で取れたぶどうで作るため、テロワールが表現しやすいというメリットは前述しましたが、これが逆にデメリットに繋がる場合もあります。それはなぜか? もし冷害や害虫で、ブドウが不作の年はどうするのか。NMであれば多くの生産農家から集まるワインや自社のリザーブワインの配合を調整することで、毎年変わらぬ味を提供することができます。しかしRMでは、自家農園が不作であれば自社の畑や設備の都合上、大手に比べて少ない量のリザーブワインしか所有しておらず、どうしようも無い状況となります。このようにRMはNMに比べて味わいのばらつきが多いともいえます。ブレンドの技術も平均的には、やはり大手NMに軍配が上がります。優秀な選手は必ずしも優秀な監督にはならない、のと似ていて、優秀なブドウの作り手が、優秀な醸造術を持っているとは言い難いものです。
こうした要因から、RMはいかにギャンブル性の高い飲み物かと言うことが分かっていただけたかと思います。NMであれば同じ銘柄のものを数年先購入しても、味のばらつきはほぼ無いでしょう。しかしRMは今年良くても、来年も必ずしも同様のものがリリースされるとは限りません。といってRMを否定するつもりはまったくありません。NMを規格された工業製品と例えるなら、RMにはある種の人間模様が現れた芸術品さながら。そこを踏まえれば更にRMを楽しめることでしょう。
前田エクストラ・ブリュットおすすめ RMの楽しみ方!
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高価になりがちな古酒シャンパーニュも、RMだと比較的安価で手に入る。古酒のシャンパーニュを探してみよう(良ヴィンテージでもRMだと残っている可能性があります)
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ピノ・ムニエ100%やプティ・メリエなどの古代品種を使用したシャンパーニュなど、NMでは珍しいセパージュがあるので、個性を楽しもう
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RMの専売特許、ビオシャンパーニュを楽んでみよう
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