シャンパーニュ地方ではぶどうの収獲が終わり、それを1次発酵をさせ、各メゾンでアッサンブラージュが行われる時期になりました。2007年ヴィンテージ、そして今年楽しめるNVの最終的な味わいが決定する瞬間といえるでしょう。
さて、今回は、シャンパーニュでは驚くほど議論されていないテロワールについて取り上げてみようと思います。不思議に思ったことは無いでしょうか。ワインでは当たり前のように語られているテロワールについて、ほとんど語られません。ワインの世界では、ブルゴーニュなど畑や区画が非常に重要視されるのに対して、シャンパーニュではそういった話が話題に上りません。それはなぜなのでしょうか。
まず、シャンパーニュが産まれた過去の経緯があります。シャンパーニュはブレンドが一般的。
クリュッグのクロ・デュ・メニルや
フィリポナのクロ・デ・ゴワセなど一部の特殊なシャンパーニュを除いては、単一の区画から作られることは稀なのです。シャンパーニュ地方はブドウ栽培をするには厳しい気候なので、年によってぶどうの出来不出来の変化が大きく、それを補うためには、数品種のぶどうや年度、畑をアッサンブラージュし一定の品質を保たなければならない。そのためシャンパーニュ地方では、ワインに比べてテロワールを表現し難い、というのがその理由と言われています。しかし、あえて言いたい。シャンパーニュももっとテロワールを全面に押し出しても良いのではないかと! いや、むしろ押し出せるのではないかと。
事実、近年ではRMブームに象徴されるように、シャンパーニュ地方でも村名や小さな区画での製法にこだわった作り手などが話題に上るようになってきました。ビオ・ディナミやビオ・ロジックなどを採用して、極力その土地の個性を引き出す生産者も現れてきました。化学肥料を多く与える木は栄養が十分に足りるため、肥料を与えない木に比べて根の張りが浅い。土地からの栄養を十分できないことから、その土地を表現するブドウが曖昧な出来になってしまいます。ビオの実践はテロワールの力を表現するひとつの道なのです。
前述した、気候がきびしいといわれている理由にしても、言い訳にしかならないと。現在は昔に比べ醸造技術も、栽培技術も進歩しています。実際に小さなレコルタンなどは、各地に畑が無い為に自社の小さな畑から生産したブドウでのみシャンパーニュを生産していますが、素晴らしいものを生み出している造り手もいます。
しかしそれは、まだまだ小数派で、大手ネゴシアンに至ってはほとんど手付かずの状態。これら自然農法の実践が他地域に比べて遅れている要因もはっきりしています。それはシャンパーニュがフランスで最も、ぶどうの買い取り価格が高いという現実です。つまり栽培家は、わざわざ手間のかかる製法や栽培方法を選択せずとも、生活に困ることはない。RMのように自社瓶詰めするならまだしも、ブドウをネゴシアンに売るといった小さな農家では、手間のかかる自然農法を選択するメリットが全くありません。
確かに現実は厳しい。しかし一昔前は大量生産全盛期でしたが、現在の流れは個性を尊重し、自然回帰の声が高まっています。設備の近代化、科学農法の実践が行き過ぎるとシャンパーニュも工業製品の一つとなってしまいます。シャンパーニュファンの一人としてそれは悲しい。シャンパーニュ生産者も原状に満足せず、自然と調和した畑作りを実践し、地域の個性の現れたテロワールを体現していただきたいものです。
それでは皆さん今宵も良い泡を。